「ハワイは空気が違う」
−「ハワイの神話と伝説」というサイトを作ろうと思ったきっかけを教えていただけますか?
延江:昔 から神話とか伝説が好きだったというのがベースとしてありますね。サイトを作るというよりも、神話・伝説に興味を持ったということがきっかけでしょうか。 ただ、当時はまさかハワイに神話があるなどと思ってもいなくて、北欧神話とかギリシャ神話、ローマ神話を読んでいました。
ご存知かもしれませんが北欧神話などは結構スケールが壮大なものが多くて、サラリーマンをやりながら現実逃避に走ってたのかもしれません。
ある時たまたまハワイに旅行をしまして、積極的な興味があって行ったというよりも家族旅行だったんですね。サラリーマンでしたので、長いこと家族をほった らかしということもありまして、これはそろそろ手を打たないとまずいぞと。じゃあハワイにでも行くかということからですね。
いわゆるパッケージツアーではなくて、自分で手配をして行ったものですから、特に予定が決まっていた訳ではなく、ハワイで思いつくままにぶらぶらしたりし ていたんです。その時たまたま大きな本屋に行って、立ち読みがてら見ていたら、ハワイの神話に関する本がやたら沢山並んでいて、なんだハワイにも神話が あったんだ、というのが最初の驚きでした。
その時に何冊か神話の本を買って目を通したりしていたんですが、これは意外とおもしろいじゃないかということがわかって。
最初は単におもしろいなという位だったんですが、当時1998年か1999年かその位だったと思うんですが、ホームページ作り、最近ホームページと言う人 は少ないですが、ウェブサイトを作るということに興味を持って、本を読んだ感想などをサイトにしてみようかな、というので本当に軽い気持ちで始めたのが きっかけです。ですから、サイトとしては歴史もそんなにある訳ではないです。
ところがいっぺん書き始めると、特に掲示板のサイトのようにいろいろな方に様々な感想を書いてもらうというサイトではなく、単にこちらから発信しているだ けのサイトにもかかわらず、けっこういろいろな方が連絡をしてくださる。
そしていろいろと輪が広がってきまして、後押しされるような形でサイトの更新を続けたりして、だんだん後に引けなくなってきたような感じで現在に至ってい ます。
−神話をお読みになっていて、ハワイにも神話があるんだと気づかれて、ハワイのものに特化したというのは何が魅力的だったんですか?
延江:それはですね、なかなか言葉で申し上げるのは難しいんですが、ハワイに行かれた方の3人にひとり位はたぶん感じられているのではないかと思うんですが、やっぱり空気が違うんですよね。
私も世界中を旅行している訳ではないですから、厳密に比較している訳ではないんですけど、アメリカに行っても太平洋の別の島に行っても、そこに住みたいな と思うことは滅多にない訳なんですが、ハワイの場合はやっぱり何か空気が違うところがあって。
よくハワイは「マナ」というのがひとつキーワードになってるんですが、私は神秘的な話にのめり込むのはあまり好きではないんですが、ひょっとしたらそうい うものがあって、来た人をきゅっと虜にしてしまうところがあるのかなと考えています。
−特別に元々スピリチュアルなものに興味があったとか、そういう訳ではないんですか?
延江:それは言い方が難しいんですが、スピリチュアルなことに興味がない訳ではないんです。神話が好きですから、興味がない訳ではないんです。
ただ、大学は理学部を出ていまして、そういうものは要するに「迷信だろう」という基本的な立場というのも昔からありまして。
ですからハワイだと例えばナイトマーチャーズという伝説があって、ハワイのいろいろなスポットでその月のある決まった日の夜、昔の兵隊とかあるいは酋長、 そういったものがぞろぞろ行列する、亡霊が歩くという伝説が結構いろいろなところにあるんですが、そういう伝説の話を聞くのは好きなんですが、実際に見た という人がいると聞くと「ウソつけ」と(笑)。だからちょっと変わったところがあるのかもしれません。
「記録として残っていた」
−ハワイの神話と伝説というのは、特徴としてはどうことになるんですか?
延江:ハワイにしか伝わっていない話というものも当然あるのですが、全体的には、サモアやタヒチなど、ポリネシア全体として似たような話や同じような名前の登場人物が多いようです。
ただ、ハワイ以外の南太平洋の島々というのは、何と言うか、運が悪かったと言えば運が悪かったのかもしれませんが、元々その島の人達は文字を持っていな かったので、文明化されるスピードがあまりにも速過ぎると、自分たちが今まで言葉で伝えてきた文化とか伝説とか神話というのを記録に残せないうちに滅んで しまう。
ハワイの場合も結構急激に文明化というか西洋化が進んだんですけど、ハワイは教育も同じ位のスピードで非常に進んだという側面もあって、非常にラッキーな ことにハワイの場合は記録として残っている神話・伝説もものすごく沢山あるんです。
ですから、南太平洋一般に伝えられてる話であるにもかかわらず、ハワイの神話として伝えられているということがあるようです。
−昔からよく言われているポリネシアトライアングルみたいな、そういうところの神話というのは類似性が多くて、根はひとつみたいなところはあるのですか?
延江:系 統だってひとつの神話があって枝分かれしていったという訳ではなく、そんなにきれいに整理できる訳でもないんですが、例えばよくあるハワイの四大神、クー とかカネとかの四大神というのは南太平洋全体でもやはり四大神みたいなところがあったりして、共通点が非常に多いですね。
ギリシャ神話とかローマ神話以外のところと比較すると、どちらが洗練されているかというと、それはやっぱりヨーロッパ系の神話の方が洗練はされていると思 うんです。伝えられていく過程で古くから文字に残って、それを美しく伝えようみたいな工夫もされたと思うんですけど、ハワイの場合は、基本的にはおじい ちゃんが子どもに伝え、孫に伝え、というような形で伝わってきたものですから、どうしても伝わり方が素朴というか、そういう面はあると思います。
「自然界のあらゆるものにマナが宿っている」
−ハワイはどこか多神教であって、自然の中に八百万の神がいるというような、日本と非常に近い原点を持っているような気がするんですが、その辺はどうお感 じになっていますか?
延江:先程冒頭で申し上げた「マナ」という正体不明なものがあるんですが、マナというのは人間にも当然宿っていますし、自然界のありとあらゆるものにマナが宿っているんだというのが基本的な考え方としてあるんです。
これは日本の昔の神道みたいなものにも通じるのではないかと思います。仏教でもそうかな、草木国土悉皆成仏といいますけど、そういうものと似たような考え 方があるのかな、と思うんです。
ですから、ハワイも今はクリスチャンの国ですし、19世紀以降はキリスト教がメインの宗教みたいになっていますが、なっていますけれども、全然排他的では ないんですよね。
日本の仏教の寺院もあれば、神社も当然ありますし。昔からの素朴な信仰みたいなものも結構大事にされているところもあって、そういう意味ではおおらか。日 本と似たところがあるのかなと思います。
−日本の場合だと神道とか仏教が入ってきて、ずっと宗教的な背景がありますけれど、元々アメリカ人が来る前のハワイにはどういうものがあったんですか?
延江:これは確たる証拠がある訳ではないんですが、11世紀か12世紀に1回大きな変わり目があったんじゃないかと言われているんです。
ハワイの12世紀よりも前の先住民の人達というのは伝説にもありますけど、たまたま流れ着いたというか行き着いた人達が原始的な、原始共産制じゃないです けど、そういう暮らしをしていたらしい。
ところが、割と有名な伝説として残っているのは、11世紀か12世紀にサモアからパアオという非常に身分の高い僧侶が堂々とハワイに上陸してきまして、当 時の南太平洋の文化でいきますとハワイはまだ遅れた未開の地だったんですけど、サモアとかタヒチは既に社会的にも成熟していて法律もあり、宗教的にも非常 に厳しい掟があるというところだったみたいです。
その非常に厳しい社会的な規律と一緒に宗教的な規律がパアオによって持ち込まれた。
そのあたりから、例えば生け贄を必要とするような寺院が建てられたり、文章にはなっていませんが割と体系だった宗教的な行事が始まったりという風に言われ ています。
−元々文字がなく、口述継承で伝わってきたものが、ある程度系統立ったのは、例えばクムリポのところでも書かれてますが、リリウオカラニ女王とかその前の カラカウア王とかがだんだんそういうものを文字化していこうとしたということなんですか?
延江:文 字化していくというところが南太平洋の他の地域ではあまり見られなかったハワイならではの非常にすばらしいところだと思うんですが、カラカウアとかリリウ オカラニがハワイの文化の復興をという目的もあって自ら本を書いたというのもあるんですが、文化的な背景としては、カメハメハ王朝でいうと3代目になるカ メハメハ3世という非常に有名な王様がいるんですが、彼がハワイの教育に非常に力を入れた優秀な王様でした。
それまではハワイに文字がなかった位ですから、当然みんな読み書きもできる訳がなかったんです。ところがカメハメハ3世の治世が終わる頃には、ハワイの成 人の識字率が9割を超えた。ですから、ものすごいスピードで文化とか教育の効果が現れたんですね。
そういう背景があった上で、ハワイの伝統文化とか神話とか歴史を読める形にして残していこうよ、という動きがいろいろなところでありまして、19世紀の後 半位から、本を書くというよりも、まずはお年寄りに話を聞いたりして、神話とか伝承を集めていくという作業をさかんにやった訳です。
その中でも特に有名なのが、Abraham Fornanderという人です。Fornanderは、元々はスウェーデンの人で、たまたまハワイに流れ着いた人なんですけど、Fornanderが膨 大な神話・伝承の書き取りをして残した記録というのがあるんです。
それが唯一とは言わないんですが、アメリカなどで出版されているハワイの神話や歴史文化の参考文献のまず最初にくるのがFornanderの残した記録と いうのがあります。
−ハワイの創世神話というクムリポというのが書かれて、例えば日本の古事記ですと、海を掻き混ぜて雫が落ちて四島になったみたいなことがこちらでも書かれ ているんですが、その辺は日本とハワイが似ているっていう考え方なのか、創世神話というのは世界中どこへ行ってもそういうものなんですか。
延江:確かに国生み神話と言われるものは世界中どこへ行ってもありますよね。人間誰しも気にするところだからと思うんです。その辺は世界共通だと思うんですが、国によって微妙な違いがあるのかな。というのは、神様というものに対する取扱いですね。
神様というのが非常に崇高で遠くにあるものなのか、あるいはそうではなくて、自分たちの身近にいるものなのかというところなんです。ハワイや南太平洋の場 合は、本当に身近にいるみたいで、ドアを開けたら神様が立ってたというようなところがありまして。
先程のクムリポも私も全文を読んだ訳ではありませんが、有名なのは進化論のように原生動物みたいなものが進化していくというような書き方なんですけど、確 か登場してくる順番が人間の方が神様よりも先に出てきたんじゃないかと思うんですね。ですから、そういう意味では神様の地位が、それなりに敬っているんで すけど、自分達の仲間というような感覚が少しあるのかなと感じます。
「人間は大自然には勝てない」
−あと、例えばハワイでいうとペレという非常に愛されている神がいますが、断片的に言うと、非常にわがままでやきもち焼きで、自分の力を使って気に入らな いものは何でも排除してしまうみたいな、そういう神様がハワイでとても敬われている部分というのはどういう理由なのでしょうか?
延江:ペレについてはハワイオリジナルとまでは言えないかもしれませんが、ハワイの中でものすごく育ってしまったというか、他の島々でペレの島というような神話はそんなにはなかったりするんです。
というのは、ペレの振る舞いはハワイの火山の噴火の振る舞いとそっくりなところがあって、火山の噴火というのは崇高な位に美しいけれども、何するかわから ないところがあるし、どんなに一所懸命お祈りしたとしても、そんなことはお構いなしに噴火してくるし、非常にわがまま。だけれども引きつけてやまない魅力 があるという火山の魅力と表裏一体というのがあって、ハワイの中ではペレという神様の神格が非常に育ったのかなと思うんです。
もうひとつハワイの神話で多いのは、これはペレだけでもないんですけれど、男性が主人公になっている神話はあんまりないんです。
有名な神話だと大抵は女性が主人公なんです。ハワイが女系社会だといっている訳ではないんですが、ミクロネシアだと、ハワイにも英雄マウイがいますが、そ の類で男性あるいは男の子が主人公の神話の方がメジャーなんですけど、ハワイはペレだけではなく、全般的に女性が強いようです。
あまり確信がある訳ではないんですが、そういうところもあって火山に対する恐れというのと、女性に対する恐れというか、それがない交ぜになったところで、 ペレの神話というのが育っていきやすかったのかなと考えたりしています。
−例えばポリアフなど、個人的な感情からペレに虐げられたり、追いやられて、ひっそりと人々に愛されながらひっそりと佇んで生きていくみたいな神話が多い ような気がするんですけど、その辺はハワイの人達のなにかしらの気風みたいなものはあるんですか?
延江:先 程の火山と関係するのかもしれませんが、最終的には人間は大自然には勝てないんだと。その辺はヨーロッパの神話と違うところです。ヨーロッパの神話は基本 的にはすべて自分が征服してやるという、そういう根底があるんですけれど、やっぱり大自然にはかなわないんだなというのがひとつの流れとしてはあると思い ます。
−そういう神話の一番の魅力というのはどういうところですか?
延江:な かなかひと言では難しくて繰り返しになるかもしれませんが、得体の知れないマナというもの、特に神話や伝説の中にマナという単語が出てこないとしても、 やっぱり根底を流れているマナというものを大切にしなくてはいけないというような、わりと日本人にもしっくり来る思想があるのかなと思ったりするんです。 だから魅力というのも変なんですけど、抵抗なく読めるというのはやっぱりそういうところなのかなと思います。
−今、日本ではフラが流行っていて、古典フラですと口承のものにメロディーをつけて歌うというものもありますが、そういうものも伝説ということなんです か?
延江:古典フラの素材は割と多岐にわたってはいるんですが、やはり昔の英雄あるいはペレなんかもそうですけど、そういう神か人かを歌っているものは結構多いんですね。その次に多いのは自然界そのものを歌ってるものですね。
−やっぱりベースには自然、八百万の神みたいなものがハワイとしてはベースにあるんですか?
延江:あると思います。
−それはミクロネシアとかでもそうなんですか?
延江:だと思うんですが、ハワイのように大量の資料や文献が残っていないんですね。ですから日本で言えば桃太郎の話みたいなものが断片的に残っていたりとか。
−現在、フィールドワークはどういう風になさっていますか?
延江:サ イトの方はあまり更新していないんですが、ネタがなくなった訳ではなくて、ネタの方ばかりが溜まっているという状況です。近いうちに、ちょっと古くなって きたサイトのリニューアルを兼ねて、ネタを放出しようと思ってます。そのときには、「お話」として読めるようなものもいくつか入れる予定です。
−怪談話みたいなものが結構ハワイにはありますね?
延江:ありますね。
−日本と似て河童のようなものがハワイにもいたりするようですが、そういうことは文化的な繋がりがあってなのでしょうか?
延江:それは古くからハワイにあったものではなくて、日本から向こうに行った人達の影響が非常に強いですね。日本の中で伝えられていた話が混ざっているとか、そういうこともありますし。
そう考えますと、ハワイにはいろいろなところから移民の人が多く来ていますから、昔話みたいに残ってるものに対して言うと、非常に多くの国のものがいろい ろ取り込まれているのでしょう。いわゆる民間伝承としてはそういう形かもしれません。
ただ、ハワイの場合ですばらしいのは、本当に初期の段階、19世紀の半ばとか後半の段階で、その時点では移民などはほとんどいなかった状態ですから、その 時点での記録というのがどさっと残っているんですね。ですからそれがハワイに伝えられていた神話とか伝説だよという形でさまざまな本が出ていますので、い わゆる後から入ってきた民間伝承と切り離してそういったものを見ることができるのはいいですね。
−ハワイ王国以前にも王朝としてのハワイがあったという話もほとんどのものが文章化されて残っているんですか?
延江:カメハメハ1世よりも前のいわゆる王朝の歴史というのは、神話の中の話ですから、いろいろな英雄伝説なんかと一緒に口承で伝えられてきたようです
−新しい時代というのはカメハメハからという。
延江:そうですね。更に言えば、カメハメハの時代もハワイにはまだ文字がなかったんですね。カメハメハが死んだ翌年、1820年に初めて宣教師がやってきたというところから初めて文字の文化がスタートしますので。
−ところで、ハワイにはよく行かれるのですか?
延江:年に2回位ですね。よく行かれている方からすれば、なんだそんなもんなのかという程度ですし、普通の人からすれば、年に2回も行ってるのという、そんな感じですね。
−その時にはやはり書物を探されるのですか?
延江:そ の時その時で目的は様々なんですけれど、いわゆる調査目的という時は本当に味気ないですね。今でこそ結構時間はありますけど、サラリーマンをずっとやって ましたから、その時は2泊4日というような日程で。しかも行ってほとんど図書館やステートアーカイブに籠もっていますから、一体何をしに行ったのかという 感じ。
−個人的にはカメハメハのお墓というか死体がどこにあるかわからないというミステリーみたいなものが未だにあるんじゃないかと思うんですが、そういうこと はハワイでも研究されているんですか?
延江:カ メハメハの遺骨ということについては、ハワイ王国の後半ですけど、カラカウアが尊敬するカメハメハの遺骨に非常に興味を持って、密かにチームを作ってハワ イ中を探させたりしたということがあるみたいなんですけれど、やっぱり見つからなかった。実際骨は出てきたらしいんですけど、どうも別人のものだったとい うことがわかったらしくて。個人的にはそういうものはそっとしておくべきじゃないかなとは思っています。
−今後の活動はどのようになるご予定ですか?
延江:まずはサイトのリニューアルが目標としてあるんですけど、いろいろな方から本を書かないかと勧められてるんです。なかなか時間が、時間の問題ではないのかもしれませんが、本は書いてみたいなと思っています。
−興味深いお話をありがとうございました。
(2005年11月)
information
■ハワイの神話と伝説ウェブサイト
( ハワイの神話と伝説ウェブサイトより)
観光ガイドブックなどではあまり詳しく紹介されることのない、ハワイの神話と伝説を紹介。 「神話伝説コレクション」、「ハワイの歴史」、「ライブラリー」、「古代はワイの文化」等について知ることができる。
http://www.legendaryhawaii.com/

