「ボブ・グリーソンとPegasus Guitars & Ukuleles:森の中の名工が遺したもの」

2025年1月末にハワイイ島に住む名ルシアー
Pegasus Guitars & Ukulelesを営んでいた
ボブ・グリーソン氏が亡くなられたとの知らせが届いた
2000年以前からウクレレに興味のある方はよくご存知であろう
ペガサス・ウクレレのオーナー、制作者でウクレレ弦として
有名であった”ヒロ・ストリング”のオーナーでもあった
ボブさんと親しい友人によると
24年のメリー・モナーク開催時はお元気で
自分用のウクレレを制作していたが
12月初旬に脳梗塞で倒れ入院され
帰らぬ人となられた



僕は2008年、本の取材でヒロの工房を訪れ
ボブさんにインタビューをした。
楽しく、そして貴重な時間を過ごせたことを思い出す
当時の記事をもとに
ボブさんへの感謝と哀悼の気持ちを込めて綴る
この文章を通じて
ボブさんとペガサス・ウクレレの素晴らしさを
少しでも多くの方に知ってもらえたら嬉しい


NOTEにも同記事をアップしています


森の奥に佇む工房
ハワイ島ヒロ空港から車を走らせること約30分。
うっそうと茂る森の奥に、「Pegasus Guitars & Ukuleles」の工房はひっそりと佇んでいた。
表札もなく、外からはその姿を伺うこともできない。
工房の主、ボブ・グリーソン(Bob Gleason)は僕を迎えにバイクでやってきた。
「道に迷うといけないからね」と笑う彼の姿は、今も鮮明に思い出される。
彼の工房は、いわゆる「工場」ではなく、まさに「工房」だった。
静寂に包まれた空間で、一本一本丁寧に作られるウクレレたち。
彼が大切にしていたのは、大量生産ではなく、自分が納得できる楽器を生み出すことだった。
パーツひとつひとつを手創りしていた。
「注文を受けても、すぐに作ることができないからね。だから今はオーダーは受けていないんだ」とボブは言った。
彼のウクレレは年間でわずか10本ほどしか作られず、日本で手に入れるのは極めて難しい。
それでも、完成したウクレレの半分は日本へ渡るという。
「ペガサスを手に入れられたら、それは本当に幸運なことだよ」と彼は微笑んだ。
唯一無二のウクレレを求めて


ボブがウクレレ作りを始めたのは、1982年頃。
もともとはアメリカ本土でギターを作っていたが、ハワイへ移住してからウクレレ制作にのめり込んでいった。
「最初はカマカのような大きな工場を持つことを考えたこともあった。でも、結局は自分の手で作り続けることが大事だと気づいたんだ」
1990年代にはショップも構え、日本からも多くのファンが訪れた。
しかし今では、一人で好きなウクレレを作るスタイルに落ち着いた。
「私は、他の誰とも違うウクレレを作りたいんだ」
彼のウクレレは、ボディのシェイプやサウンドホール、木材の組み合わせなど、どれも個性的で、同じ形のものは一つとしてない。
彼は「似ているものはあっても、まったく同じものは作ったことがない」と語っていた。
工房を訪れた際、ボブはブラジリアン・ローズウッドを使った一本を製作中だった。
コアを使うことが多いが、ハーフ・コア、ハーフ・マンゴーなど、異なる素材を組み合わせることにも挑戦していた。
「良い木材が見つかるのは、ラスベガスでジャックポットを当てるようなものさ」
彼は生涯分のコア材を確保していたが、それでも良い木材が見つかれば買い足していた。
木材の乾燥にもこだわり、10年、20年かけてじっくりと仕上げる。
市販の乾燥済み材ではなく、自ら選び、管理した木材を使う。
それが、ボブのウクレレ作りの哲学だった。


ボブ・グリーソンの遺したもの
「ペガサスの音は、1本1本違うんだ」
彼は「これがペガサスの音」と決めつけることなく、それぞれの楽器が持つ木の特性やデザインを最大限に生かした音を追求した。接着剤や塗料にもこだわり、できるだけ自然素材を使うことで、楽器の響きを大切にした。
「最近の接着剤は強力すぎて、修理のときに困ることがあるんだ。だから、昔ながらの方法を大事にしたい」
環境への配慮と、長く愛される楽器を作ること。
その両方を考えながら、ボブは日々ウクレレと向き合っていた。


工房には、息子のロビンもいた。ボブの隣で、彼もまたウクレレを作っていた。
ロビンは現在、楽器作りからは離れて消防士として活躍しているという
ボブがこの世を去った今、その技術や哲学、多くのコア・ウッドはロビンに受け継がれていくことだろう。


工房を後にする際、ボブは言った。
「今、売れるウクレレが1本あるよ。2600ドルだけど」
それは、神の声のように聞こえたが、僕には少し高価だった
その後、後悔し買うチャンスを探したがそれは叶わなかった
ありがとう、ボブ。
あなたの作ったウクレレ、ギターはこれからも多くの人の心を響かせ続ける。
あなたの工房で聞いたウクレレの音色は、今も私の胸の中で鳴り響いている。
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