
カラニ・ペアが4回目の受賞を果たしたグラミー賞
あまり注目を浴びることがないカテゴリーだが
ハワイイのミュージシャンにはどのような意味があるのだろうか
グラミー賞とハワイイ音楽の関わり、歴史を考えてみた



ハワイイ関連でのグラミー・ニュース
1.ハワイイ出身のスーパースター、ブルーノ・マーズはレディー・ガガとのコンビで「ポップ・グループ賞」を獲得
2.ハワイイに馴染みのあるタージ・マハルは「Best Traditional Blues Album」を受賞した
ミュージシャンにはスティール・ギターの名手ボビー・インガノも参加している


カラニ・ペアがグラミーの部門賞受賞
ハワイイ音楽がグラミー賞という世界的な舞台本格的に名を連ねるようになってから約20年。
2025年2月2日(現地時間)に行われた第56回グラミー賞では、ハワイイ音楽がノミネートされる「Best Regional Roots Music Album(最優秀リージョナル・ルーツ・ミュージック・アルバム)」で”カラニ・ペア”がファイナリストとなった。
グラミー賞とハワイイ音楽。本土から3200キロ離れた伝統と革新が交差するこの小さな島々の音楽が、どのようにしてグラミー賞と関わりを持つようになったのか。その歴史と意義を考える。
グラミー賞におけるハワイイ音楽の存在感
グラミー賞は1959年に創設された。しかし、当初はハワイイ音楽を専門に扱う部門はなかった。ハワイイのアーティストたちはフォークやワールドミュージックのカテゴリーでノミネートされるにとどまっていた。
ハワイイ音楽の価値を世界に認めさせようという機運のなか、2005年に「最優秀ハワイアン・ミュージック・アルバム(Best Hawaiian Music Album)」部門が誕生。この部門の設立後、毎年ハワイイ音楽がグラミーを受賞するようになったが、スラック・キー・ギターをフィーチャーしたコンピレーション・アルバムが6年連続して受賞する結果となった。
そして、その作品の全てにスラック・キー・ギタリストでプロデューサーのダニエル・ホーが制作に参加。インストゥルメンタル作品ばかりが受賞する状況となった。2011年、7年目にしてティア・カレル(Tia Carrere)のボーカル作品が選ばれたが、これにもダニエル・ホーが深く関わっていた。
ダニエル・ホーがどうこうではないが、さすがに「偏りすぎではないか」という空気が流れたことも事実だった。選考の基準や過程がブラックボックスであることも、当時から議論されていた。
「Best Hawaiian Music Album」受賞作品一覧(2005年~2011年)
年度 | 受賞アルバム | 受賞アーティスト |
---|---|---|
2005年 | Slack Key Guitar Volume 2 | Various Artists |
2006年 | Masters of Hawaiian Slack Key Guitar, Vol. 1 | Various Artists |
2007年 | Legends of Hawaiian Slack Key Guitar – Live from Maui | Various Artists |
2008年 | Treasures of Hawaiian Slack Key Guitar | Various Artists |
2009年 | The Spirit of Hawaiian Slack Key Guitar – Live | Various Artists |
2010年 | Masters of Hawaiian Slack Key Guitar, Vol. 2 | Various Artists |
2011年 | Huana Ke Aloha | Tia Carrere |
2011年カテゴリーの統廃合
2011年のグラミー賞の大幅な部門整理により、「Best Regional Roots Music Album(最優秀リージョナル・ルーツ・ミュージック・アルバム)」が新たなカテゴリーとして誕生した。
2010年まで、以下のようなカテゴリーが存在していたが
- Best Hawaiian Music Album(最優秀ハワイアン・ミュージック・アルバム)
- Best Zydeco or Cajun Music Album(最優秀ザディコ/ケイジャン・ミュージック・アルバム)
- Best Native American Music Album(最優秀ネイティブ・アメリカン・ミュージック・アルバム)
これらのカテゴリーは統合され、新たに「Best Regional Roots Music Album」が作られた。
この部門では、アメリカ各地の伝統的なルーツ音楽が対象となり、具体的には以下のジャンルが含まれると定義された。
- ハワイイアンミュージック
- ケイジャン&ザディコ(ルイジアナのフランス系移民由来の音楽)
- ネイティブ・アメリカン音楽
- その他、特定の地域に根付いた伝統音楽


カテゴリー統合の影響
Best Regional Roots Music Album 歴代受賞者
年度 | 受賞者 | 受賞アルバム |
---|---|---|
2012 | Rebirth Brass Band | Rebirth of New Orleans |
2013 | The Band Courtbouillon | The Band Courtbouillon |
2014 | Terrance Simien & The Zydeco Experience | Dockside Sessions |
2015 | Jo-El Sonnier | The Legacy |
2016 | Jon Cleary | Go Go Juice |
2017 | Kalani Pe’a | E Walea |
2018 | Lost Bayou Ramblers | Kalenda |
2019 | Kalani Pe’a | No ‘Ane’i |
2020 | Ranky Tanky | Good Time |
2021 | New Orleans Nightcrawlers | Atmosphere |
2022 | Kalani Pe’a | Kau Ka Pe’a |
2023 | Ranky Tanky | Live at the 2022 New Orleans Jazz & Heritage Festival |
2024 | Sean Ardoin and Kreole Rock and Soul | 25 Back to My Roots |
2025 | Kalani Pe’a | Kuini |
2012年、大きな動きがあった。部門統合によって各地域の伝統音楽が一つにまとめられたことで、ファイナリストに選ばれるハードルが上がった。一方で、幅広いリスナーに注目される機会が増えた。
ハワイイアンミュージックをはじめ、アメリカの地域音楽に関心がある人々にとって、この部門の受賞作品やノミネート作品をチェックすることは、その年の優れたルーツ音楽に触れる良い指標となった。
カテゴリー変更後、ハワイイ音楽がノミネートされない年もあったが、複数の作品がノミネートされる年もあった。そして、スラック・キー・ギターだけでなく、多様な作品が選ばれるようになった。
2012年から5年間、ハワイイ音楽はファイナリストにならなかった。2019年、カラニ・ペアが初めて栄冠を掴み、その後リリースした全てのアルバムで4回のグラミーを受賞。だが、これもまた特定のアーティストに偏る状況を生んでいる。


約13,000人のアカデミー会員の投票によって決まるグラミー賞。ニッチなカテゴリーには未だに謎が多い。白人優位との批判があったグラミー賞だが、2025年には変化の兆しが見えているといわれている。
Regional Roots Musicなどのスモール・カテゴリーに注目は当たるのだろうか。
グラミー受賞者の栄誉
90近いカテゴリの中で埋没しがちだが、グラミー受賞によりハワイイのアーティストが世界へと飛び出すきっかけとなることに変わりはない。
僕たちは外から見ている。ほとんどニュースにならない受賞の意味を考える。しかし、アメリカのハワイイアン・ミュージシャンにとって、音楽界最高の栄誉を得ることは重要なこと。
経済的な影響は定かではないが、「グラミー受賞者」であることの価値は計り知れない。
ハワイイ音楽の未来
ハワイイ音楽は、時代とともに変化しながらも、その根底にある魂を失うことなく響き続ける。独自の部門を持ち、統廃合を経験しながらも、アーティストたちは自らの音楽を進化させ、世界へと発信し続ける。
伝統と革新の狭間。ハワイイ音楽の未来を見つめ続けたい。
今年もカラニ・ペアがグラミーを受賞。しかし、ハワイイの音楽賞「ナー・ホク・ハノハノ賞」では圧倒的な存在ではない。不思議な状況。6月21日に行われる授賞式ではどうなるのだろうか。
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